翻訳者の暮らし

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翻訳するのがしんどくなるとき(翻訳者に向いている人とは)

翻訳がいやだとか、つらいとか、飽きるとか、そういったネガティブなことを感じない翻訳者はいるようです。

 

うらやましい。

 

翻訳するのが楽しい!

 

ずっとそう思っていられる人は翻訳が天職なんでしょうね。

 

 

私は正直、そこまででもないです。

 

10年以上続けているのだからもちろんいやではない。

 

けど、翻訳するのがしんどいと感じるときもあります。

 

 

 

特に感じるとき。

 

それは文脈のない言葉の羅列をひたすら訳さなければならないとき。

 

(繰り返しますが私の場合です。先ほど書いたように好きな人はどんな原文でも楽しいのだと思います)

 

 

今、訳している本の中に、熟語や成句などをまとめた一覧があります。

 

例文はありません。

 

例えば "in advance" や "according to" など。

 

数単語ずつが並びます。

 

10や20なら特に何ともないのですが、約900個あるのです。

 

 

単語自体はそれほど難しくない。

 

難しい物もありますが、多くありません。

 

 

ですから当初は楽だと思ってしまった。

 

ところが!

 

 

20も訳せば疲れてきます。

 

文脈はないので一般的な訳語を当てるのですが、たった一つの訳語にしようと思うと意外と迷う。

 

in advanceなら「前もって」?

それとも「事前に」?

 

according toなら「~によると」?

それとも「~に従って」?

 

 

例文がないのだから、自由に訳せばいい。

 

そう思う一方で、これを辞書や用語集のように使う方がいるかと思うといい加減な訳はできない。

 

ですから一つひとつ裏を取ることになります。

 

ひたすら辞書を引く。

 

たいていは複数の辞書を。

 

一般的で正確な訳語は何になるのか。

 

辞書に載っていないものもあるので、その場合はインターネットも使って調べます。

 

知ってると思っている熟語でも、自分の記憶が間違っている可能性や、もっと適切な訳語が存在する可能性もあるので逐一調べます。

 

 

 

最初の訳出時にこれですごく時間がかかりました。

 

時間はかかるし、いくら訳しても全然終わらない(なんせ約900個ありますから)。

 

はじめはそれなりのスピードで進みましたが、だんだんと数行進んだだけで息切れするように……。

 

翻訳終了まで見込んでいたよりも何倍も時間がかかりました(なんせ数語ごとに辞書をひきますから)。

 

 

 

そして見直し。

 

特に出版翻訳のときは、出版社に提出する前に見直すのはもちろん、その後、ゲラ(校正刷り)になって3回ほどさらに見直します。

 

 

今は1回目の初校なのですが、本当につらい!

 

既に訳して、以前に見直しているとはいえ、一つひとつ間違いがないかをさらに確認していきます。

 

数行チェックしただけで正直、叫び出したくなります。

 

数ページやってもまだまだある。

 

いつまで見直しても全然終わる気配がしない。

 

永遠に続く文字の羅列!

 

 

原文の意味が分からず、解釈に悩むときもつらいですし、意味が分かっても自然な訳文にならないときにも情けなくなりますが、この単語一つひとつに向き合わなければならない単純作業はイライラの素。

 

 

翻訳者の適性って、どれだけ机の前にいられるか、ウロウロせずに座っていられるかという面で測ることができる。

 

この本を訳して、そう思いました。

 

 

逃げ出さずに、どんな原文でも読み、訳し続けられる。

 

数行、数ページではなく。

 

毎日、毎日。

 

それをできる人が翻訳者に向いているんでしょうね。

 

 

一日中、机に向かっているのは体に良くないので考え物ですが、一方で5分もすれば動きたくなるような人は翻訳者にあまり向いてないかもしれません。

 

少なくとも私は文字の羅列の翻訳には向いていないようです。

 

 

そう思うと、辞書や用語集を作る方は本当にすごい。

 

例文があればまだしも、例文のない用語集なんて私は絶対に作れない。

 

イライラがつのり、「あー、もうだめ!」と叫んでやめてしまうでしょう。

 

 

世の中にある辞書や用語集は本当に貴重。

 

感謝の気持ちも湧く。

 

そんな日々です。

 

 

 

基本的に翻訳者は訳すと決まった仕事を途中でやめることはできません。

 

ストレスがかかっても何とか机にかじりつき、がんばって見直しを続けます。

 

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